2010年4月30日(金) 22:58
|
モリノス
「安達ヶ原か卒塔婆小町…」。恋人を何百年も待ち続け生きるために人肉を喰らい鬼女と化した女。絶世の美女と唱われた小野小町の死霊が老婆の姿に化身し旅の若者をとり殺す…的な昔話が能や歌舞伎、新劇などで今も尚、上演されています。冬から一気にツツジが咲き、初夏のこしらえをした地元駅の構内…。私は読書に夢中になり危ないけど読みながら地上に向かうエレベーターの方に歩いていました。エレベーターの前はなんだか不審な様子…。降りてくる帰宅を急ぐ人々は、エレベーターまで行くのに、ささっと逃げて行きます。「何事ぞ?」と思い見ると、腰の曲がった老婆が重たそうなカートに寄りかかり、昇降機が降りて来るのを待っているカンジでした。読書に夢中な私は、エレベーターが到着すると活字を目で追いながら箱の中に入りました。「!」鋭い異臭が立ち込めます。気づくと狭い箱の中には、私と異形な老婆だけ…。老婆はホームレスだったようです。カートの中はタバコの吸い殻と生ゴミだと思われる食材、老婆はベトベトのカツラをかぶり、異様にデカい男 物の靴を履いていました…。ガーン、なんか怖いかも〜とプチビビった私ですがその瞬間に、老婆は私の顔を見上げ艶然と微笑みました。煤けた顔、スーッと通った鼻梁に深く亀裂の入ったその顔の眼窩は窪んでいましたが、眼光鋭く若いころはさぞ美しいかったのではという雰囲気を醸していました。老婆は私を上から下まで見ると更に、妖艶な眼差しを私に向けます。その視線を受けた私は「多分この人は、元は池袋では公然の秘密の街娼、年老いても紅を唇に引き、池袋の某地域でお客を引く、限界までタチンボした後には、池袋でホームレスとして暮らす、更に年を取ると池袋を追い出され、埼玉に向かう東西の私鉄沿線駅を根城にし、ゴミを拾い近くの公園で暮らす、運良く保護されるか野垂れ死」な境遇の人なんじゃないかと想像しました。街娼の現役をとうに退き、場末の町のホームレスに成り下がりながらも、習い性なのか媚態を男に見せるその姿…。私は醜いというカンジは一つもなく、この婆さんタフだなぁ〜と、感心しました。そして、「今は老いさらばえて吸い殻を集めて は売っているけどその昔は小町と言われた女です」といったカンジの台詞を思い出しました。筋金入りの老婆ホームレスは、夜の商店街に紛れて消えて行きました。その姿はなぜか毅然とし堂々としたものでした。察するにかなりな高齢、彼女は汚い乞食だけどきっと波乱に満ちた人生だったんだろうけど、悲壮感がまったくないのは、ホームレスだてらに御自身の人生に納得と満足をされているのではと畏敬な気持ちを持った私でした。
|